
「好き」を集めるだけで終わらせない。デザインの判断を育てるテイスト台帳
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参考画像を保存しても、次の制作で使おうとすると「どこが良かったのか」が思い出せない。そんなときは、画像を増やすより、二つを比べた判断を残す方が役立ちます。テイスト台帳は、好きな作品の一覧ではありません。「どの特徴を、どの目的で採用し、どんな条件では外すか」を記録する小さな仕組みです。
一票の「好き」では、判断の中身が消える
2026年に公開されたTASTE研究では、10人のプロデザイナーが、4つの画像生成モデルの出力を9つの基準で順位づけしました。基準にはムード、視覚的階層、色の調和、タイポグラフィ、指示への忠実さなどが含まれます。各基準1,600件の評価では、デザイナー同士の一致に意味のある傾向はあったものの、その強さは基準ごとに異なりました。色の調和より、文字や空間配置の正確さの方が一致しやすいという結果です。TASTE論文
ここで面白いのは、デザイナーの好みが「完全に主観だから記録できない」わけでも、「良い順に一本の列へ並べられる」わけでもないことです。総合評価だけを残すと、どの基準で判断が分かれたかが消えます。参考を制作へ移すなら、保存する単位を「画像+好き」から「比較した二案+観点+用途」へ変える必要があります。

図1:説明用の仮想比較。評価結果ではなく、記録する情報の違いを示しています。
1枚を語るより、2枚の間にある差を書く
たとえば、専門サービスの記事カバーを検討しているとします。Aは余白が広く、主役の形が一つ。Bは小さな形が反復し、画面全体に探索する場所があります。ここで「Aが好き」とだけ残すと、次回もAに似た画像を探すことになります。
項目 | 記入例 |
|---|---|
比べた対象 | A:一つの主役/B:小要素の反復 |
画面で確認した差 | Aは最初の視線が中央へ集まり、Bは複数箇所へ分かれる |
今回の採用 | 一覧で小さく表示するため、Aの焦点を採用 |
移植する特徴 | 主役を一つに絞り、周囲の余白を残す |
採用しない条件 | 探索の楽しさや情報量を見せたい特集ページでは固定しない |
この書き方なら、Aの配色やモチーフをそのまま真似せず、焦点の作り方だけを別の制作に移せます。「余白30%」のような数値を先に決める必要もありません。まず一つの作例へ移し、小さい表示と原寸の両方で焦点が残るかを確かめます。数値は、その後に再現条件として残せば十分です。
テイストは、トレードオフを選んだ場所に現れる
FigmaのChief Design OfficerであるLoredana Crisanは、テイストは機能と形、表現性と読みやすさ、足すものと残さないものの間でどう判断するかに現れると述べています。You never stop cultivating taste
この見方に立つと、台帳で大切なのは「好きな特徴の辞書」ではなく、迷った二案の境界です。静けさを選んだのは、いつでもミニマルな表現が好きだからではない。今回の一覧では小さく見えることが優先だったからです。文脈と例外を一緒に残せば、次の案件で同じ表現を自動採用せずに済みます。
逆に、個人制作で偶然を楽しみたいときまで記録を義務にすると、手を動かす前に言葉が作品を狭めます。クライアントや媒体が毎回違う場合も、全社共通の好みへまとめず、案件や用途の範囲を付けて残す方が安全です。
AIには、選好の決定ではなく理由候補を頼む
TASTE研究では、検証対象となった既存の画像評価モデルは、5人のデザイナーによる多数決との一致が0.55を超えませんでした。対象は限定された実験ですが、「AIに良い方を決めてもらう」ことを出発点にしない理由にはなります。一方、観察メモから比較の観点を増やす補助なら、判断を手放さずに使えます。
用意するものは、二案について画面で確認できた短いメモと、その制作の目的です。この記事の仮想例では、次の指示を実行しました。
Aは余白が広く焦点が一つ、Bは小要素が反復し探索感がある。用途は記事一覧の小さなカバーです。どちらが良いか決めず、二案を比べる観点を4つ挙げてください。各観点に、画面で確かめる場所と、判断が逆転する条件を付け、推測には「仮説」と書いてください。
出力には「最初の視線」「縮小時の識別」「反復のリズム」「シリーズで並べたときの変化量」が候補として出ました。人が確認した結果、「シリーズで並べたときの変化量」は今回の1枚だけでは確かめられないため、仮説のまま残します。「探索感が高いほど滞在が伸びる」のような効果の推測は採用しません。
15分で、最初の一件を作る
同じ媒体・同じ用途の参考を3枚選びます。最初から共通点をまとめず、まず二枚を並べ、「今回の目的ならどちらを選ぶか」を決めます。視線の入口、情報の密度、余白、文字と図形の主従など、画面で指差せる差を二つだけ書きます。
次に、選んだ特徴を自分の制作物の一部分へ移します。カバーなら主役の数だけ、UIなら見出しと操作の距離だけでも構いません。原寸と実際の表示サイズで比べ、成立しなかった条件を追記します。これで台帳の一件が完成します。
集めた数ではなく、次の制作で一度使えたかを見てください。参考を眺める時間が、同じ見た目を再現する作業ではなく、判断の解像度を上げる練習へ変わります。次に参考サイトを見るときは、保存ボタンを押す前に、隣の一枚との違いを一行だけ残してみてください。
関連:参考を探す入口として、HAVUのデザイナー必須の最新フォントサイト5選も利用できます。掲載情報の現行性とライセンスは各提供元で確認してください。
出典
- Haonan Zhuほか「TASTE: A Designer-Annotated Multi-Dimensional Preference Dataset for AI-Generated Graphic Design」2026年。https://arxiv.org/html/2605.20731
- Loredana Crisan「You never stop cultivating taste」Figma、2026年6月8日。https://www.figma.com/blog/you-never-stop-cultivating-taste/
- HAVU「LOG」2026年9月15日確認。https://www.havu.cc/log
CEO、UI/UXデザイナー、デザインエンジニア
AI駆動デザインとUI設計が得意。 要件整理からUI設計・実装まで、デザインとコードの両面から形にします。AIを使った試作で案を具体化し、使いやすさと実現性を確かめながら設計を進めます。




